五條悟と時渡るJK〜過去いま運命論〜(dream)

□18-潜入とJK
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「やったー、朝じゃん…」
 アミは地平線が明るくなっていくのを寝不足のショボショボした目で見てた。

 昨日の夜にあったバケモノ雲は何処にもない。
澄んだ空が朝焼けに照らされてとってもキレーで、アミの疲れきった心がいやされていく感じがした。
 
 ガラケーで時間を確認すれば、もう少しで未来に帰れる時間になるとところだ。
 
 アミはすぐに未来に帰れるように、帰り用のお助けアイテムの指輪を付けて、クソダサゴルフバックもきっちり背負ってた。

 だけど心の中では、無事に帰れるのか不安で仕方なかった。

 だんだんと明るい部分が増えていって、夜と朝の範囲が入れ変わってく。
 地平線が光りだすと、少ししてお日様が顔を覗かせた。朝日だった。

 オール明けの帰り道で見た事はあったけど、ちゃんとした日の出を見るのはアミ実は初めてかも。

――そういえば元旦とかの初日の出で、お祈りしたりとかする人っているよねー……

 最悪の一夜を過ごしたアミは、少しでも不安を拭い去ろうと思って、手を合わせて目をつむる。

「アミが元の未来に戻れますよーに!」

 アミが今いる所は、渋谷にある工事中のタワービルの屋上。
 なんでそんな所にいるのかっていうと、昨日の夜まで時間を戻さないといけない。

 昨日の夜、ごじょーさとるの代わりにバケモノ退治をする事に決めたアミ。

 それがまさか、あんな事になるなんて夢にも思わなかった。



――えっ、ダル! どうしよ!

 バケモノの倒し方が分からなくて、うーん、とアミは頭を悩ませる。

 その時、近くにあった工事現場が目に入った。

――ん、あれって?

 アミはある事を思い出す。
 元いた時代で仲良くしてた、とあるオジサンの武勇伝。

 そのオジサンに気に入られてたアミは、よくオジサン行きつけのキャバクラに呼ばれて、キャバクラのお姉さんたちと、オジサンの武勇伝を聞かされてた。

 まあ、武勇伝の大半は下ネタだったんだけど。
 その武勇伝の中の1つ。

 今では渋谷と言ったらコレって言われる、ある商業ビル。
 そのビルが工事中の時に、当時の彼女と忍び込んでエッチしてた。
 屋上から夜景を見下ろしながらするのが解放感あってメッチャ気持ち良かった。

 ラブホ代がないから不法侵入して青姦してただけじゃん!――ってアミは思っちゃったけど、とりあえず「すごーい! 何それ!」ってオジサンを褒めまくってた。

 オジサンが連れ込んだ歴代彼女たちとのセックスエピソードはぜんっぜん、つまらなくて聞き流してたんだけど――ビルへの入り方とか、入ってから屋上まで行く話が、スパイ映画みたいで面白かったから、それはわりと記憶に残ってたんだよね。

 今、アミの目の前には、オジサンの言ってたビルがある。しかも工事中。
 そのビルの屋上はバケモノの雲の中にあった。

 もしかしたら時代が違うかもしれないけど、と思いつつ、アミはそのビルに向かった。

 ビルに向かうまでにバケモノの不思議な力にあてられてる人たちがいて、ちょっと時間はかかったけど。

 ※

 ビルまでたどり着いたら、あとはオジサンの武勇伝どおりだった。

 工事現場の仮設の壁の傍にある建物。そこに併設された物置を踏台にして壁を超える。
 丁度入った所には資材置き場があるから、そこを足場にして中へ降りる。

 アミは資材置き場からビルの周りを見てみる。懐中電灯の光が見えた。
 警備員さんが1人で見回りに来たことが分かって、アミは「ラッキー!」って思う。

 物陰に体をひっこめてその場をやり過ごすと、通過した警備員さんの後ろをついていく。

 屋上階段に行くまでにはパターンがいくつかあって、警備員さんを尾行するのが最短経路のパターンだった。

 だけど普通、警備員さんの後ろをついて行くなんてバレちゃうじゃんって思うよね。  
 アミも思った。でも、ちゃんと理由はあるんだよ。

「…〜、…〜」

 アミがゆっくり後をつけると、警備員さんが独り言みたいなのを呟き始めた。

「気のせいだ。気のせい。いつもの気のせいに決まってる…」

 後ろにいるアミにも聞こえる大きさの声になってきた。
 アミはオジサンの話のとおり、外で拾ってきた小石を警備員さんから見えない位置で投げる。

 コツンッ、って音を響くと警備員さんが持つ懐中電灯が大きく揺れる。

「………」

 しばらくすると、喉から絞り出すような悲鳴みたいな声が聞こえてくる。

「ひぃ〜、呪わないでくれぇ…」

 懐中電灯の光の動きから、警備員さんが頭を抱えたのがわかった。

――やっぱりオジサンの話どおり、ここの警備員さんビビりなんだ

 実はここのビルが建つ前に立ってた建物を解体する時に、事故で死人が出ちゃったんだって。

 それでここの土地は呪われてる!とか、なんとか言われて、警備員さんたちも怖がってて、後ろからの気配なら、基本的に幽霊だと思って振り向いたりしないんだって。

「ナンマイダブ、ナンマイダブ…」

 念仏をとなえながら警備員さんが巡回に戻っていく。

――って言っても、バケモノ実際いるし、このビルがヤバいのはたしかだけどねー

 ミドリちゃんを装着してるから、嫌でもバケモノが見えちゃうアミ。
 優しいアミは足元にいた弱いバケモノを蹴飛ばして、尾行を再開した。




 警備員さんを尾行して屋上まで続く非常階段まで到着したアミ。

 屋上までの非常階段を昇る途中でアミは、肩で息をしながら階段の段差に座り込む。
 自分の足を見つめながら思わず心の叫びが小声で零れた。

「つ、疲れたぁ…」

 この工事現場の警備員さんが屋上まで巡回がくるのは、夜と朝ってオジサンは言ってた。 
 夜の巡回がいつか分からないから、なるべく早めに屋上へ行こう!――て気持ちだけ急いで登ってきたけど。

 もうアミは死んじゃいそうなくらい疲れてしまってた。

 基本的にアミは超虚弱体質だし、体力はない。
 自分の体に無理をさせないように動かして、なんとか人並みで暮らしてるんだよね。

 考えてみたら今日は歩きっぱなしだったし、そこへきて階段を自力で昇るとか。……しかも、もう20階以上、昇ってるんだけど…。

――バカじゃん、アミ。何でこんな事してんの?

 足が疲労で重たくて、辛すぎて、本当にシンドイ。
 全力疾走で死にかける苦しみとは、また違う苦しみだね。

 多分、屋上まではもう少しだと思うけど、もう、いやだ。このままずっと座ってたーい。動きたくなーい。――でもなぁ……

「……頑張らないと」

 バケモノは早く倒さないと面倒な事になるのは、アミがよく分かってる。
 面倒はとっとと片づけるに限るから、アミは立ち上がる。
 そんで、頑張るアミはやっぱり偉いなって自分で自分をほめて、そうやってまた昇りはじめる。

ーーあ、あと、ごじょーさとるのためにも、頑張んないとだよね!


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